夜光×妖ノ宮
「珍しいか、妖ノ宮」
ぱっちりとした目に見つめられて、夜光はくぐもった声を主候補にかけた。
それに、妖ノ宮は、きょとんと目を丸くする。
「なにがです、夜光」
「俺の顔がだ」
「いえ、特に」
「では、何故俺の顔を見る」
先ほどからじぃっと穴が開きそうなほどに、
こちらの顔を眺め倒していた尊い少女に向かって問うと、
八蔓の姫君は、夜光のほうへ、ふぃっと手を伸ばした。
「…この顔の覆面を取ってみたいのか」
目以外を覆う覆面に、触れるか触れないかのところで止まった手を
流し見る夜光に、妖ノ宮は虚を突かれたような顔をする。
「覇権は握りたくないか、妖ノ宮」
夜光が覆面を取るときは、主が命じたときのみだ。
そしてその主は、夜光が仕えるに相応しいと認める者。
出来れば、覇乱王の跡継ぎが良いが。
お前はそうなるのかと、聞かれた妖ノ宮はぼんやりとした目で夜光を見ると
止めていた手を動かして、夜光の頬をぺちりと叩いた。
「…妖ノ宮」
なにをすると、目で訴えると、妖ノ宮はその唇を尖らせた。
「別に、お前の顔は好きだな、と思ってみていただけです。
そんな大事にしてくれなくて構いませんよ」
しばし沈黙。
「………………あぁ………」
その末に、相槌…のようなものをひねり出した夜光は、妖ノ宮の顔を見る。
その双眸に嘘偽りの色は無い。
偽りの色は無いが、でもちょっと。
目以外覆面の、しかも忍の顔を好きってお前。
夜光はいっそここで、妖ノ宮が嘘だよと、いたずら小僧のように笑ってくれればと思ったが、
そういう表情の妖ノ宮を、想像してみて気持ち悪くなったので
「……お前の顔も、良い顔じゃないか…?」
と力なく返した。
しかし、妖ノ宮ときたら、その夜光の言葉にも、そうですかと頷いただけで
夜光はこいつはたぶん大物なんだろうな、と、ぐったりと思った。
覇権を握るに足る器かどうかは知らないが。
五光+妖ノ宮
まぁ、本気で嫌なら、代わりの見張りをよこすか、用件を文で済ませるか出来るわけで
そこを無用な厭味を言う時間を浪費しつつ、ここまで尋ねてきて
顔を見て帰っていくわけだから、そこまででないと思うというか
五光夢路が本気なら、炙るなぞ言われる前に、とっくの昔に消されているわけで、
真実嫌われているわけではないと思うのです。
えぇ、私、死んでませんし。
「ということを、五光はやりにくくないかと、大叔父様に聞かれたので、滔滔と語ってきました」
「炙るんじゃなくて、燃やすぞ」
神流河にそれを言ったのかお前と、頬を引きつらせている
青いような赤いような顔色の五光夢路に向かって、妖ノ宮はこっくりと頷き
「大叔父様も、今の五光のような表情を浮かべていましたよ」
やはりいつもの無表情で、淡々と言い放ったのだった。
そうすると、五光の顔色が、赤に傾いてきたので、
あら、大叔父様と一緒は嫌なのねと、心の中で妖ノ宮は手を打つ。
別に大叔父と五光の、いつもの厭味も、ねちっこい言い方も、小姑みたいな言い草も
妖ノ宮は無表情で常に聞いているが…怒ってないわけじゃ、ないのである。
(あぁ、すっきりした)
良い機会だと、心の中は晴れやかに、妖ノ宮は未だ複雑怪奇な顔をしている五光の顔を
じぃっくりと眺めた。