結構なネタバレが有ります。












「お手。」
ぽふん。
小さな手のひらの上に、ごつい大きな毛むくじゃらの手が瞬時に置かれた。
「………えぇと。」
「………おい。」
きっち三点リーダ三つ分の沈黙後、フィーリアとオーロフは同時に声を出した。
まさかやるとは思っておらず、ただひたすらに困惑しているフィーリアと
条件反射で手を出してしまって、物凄く気まずい思いをしているオーロフ。
断っておくが、闇の者でありながら騎士であるオーロフは、人狼である。
犬ではない。
それぐらいはフィーリアだってきちんと解っている。
解ってはいるのだがこのオーロフ、どうにもからかって遊びたくなる生物なのだ。
ぶっちゃけて言ってしまえば、弄りたくなるタイプ。
頻繁にとは言わずとも、ちょいちょい弄くって遊んでいて、今回だってそのはずだった。
お手って言って、向こうに抗議されて、それを怒らせないように、傷つけないように
からかって遊んで、はい御仕舞い。
―そのはずだったのに。
(いやね、だって犬じゃないもの、やるなんてとてもじゃないけれど、思わないじゃない?
だから本当、何これ。)
見ようによっては手を繋いだように見えるこの格好のままいる訳にもいかず、
さりとて何か喋ろうにも、その何かは思いつかない。
だが、どうにもこうにもこの状態は気まずいにも程がある。
心のうちで密やかにぐるぐるループの葛藤を繰り広げていたフィーリアは、
オーロフの姿をちらりと見た。
自分の1.5倍は大きい体躯にもふもふとした毛を生やし、
人間とは違う狗のような頭を乗せた、人で無い生物。
むぅと一つ唸ると、フィーリアは覚悟を決めて、えいやぁっと
オーロフの体に抱きついた。
「―!!???」
「うん、お日様の匂いがして、意外と柔らかいのね。
子供達があなたにぶら下がりに来る気持ちがちょっと解ってしまうわ。」
鳴かぬなら、鳴かしてしまえホトトギス。
固まったなら、より大きな出来事で塗りつぶしてごまかすべし。
しっかりと背中に手を回し、ぐりぐりと柔らかな獣毛に顔をこすり付ける。
無論彼が、人の姿をしていたならば、フィーリアだってこんな事はしなかっただろう。
だが彼の姿は二足歩行の巨大な狼なのだ。
尻尾があるのだ。
けむくじゃらなのだ。
犬面なのだ。
フィーリアは遠慮容赦なく、抱きつき擦り寄り撫で回し
……結果見事、事をうやむやにすることに成功したのだった。
















「…………………人型になれるなんて、聞いてない…。」
「姫さんが聞かなかったんだろうがっ!」
「っ!!!」
(何したって、抱きついて擦り寄って撫で回した!)
………後々の夜、彼が人型の姿をとって現れたとき、彼女はこの浅はかな行動を
大いに恥じ入り後悔する事になるのだが、それはまた別のお話である。













あれですよ。人型になれるのに、獣型の方と最初に会って
動物だと思って目の前で着替えたりしてたら、じつは人型になれますって言われて
人間形態みせられたとき走馬灯のように過去の出来事がよみがえり…
極限まで恥かしくなって叫ぶ。こんなシュチュって、萌えませんか?
あ、石は投げないで…!
同士求む。
ちなみに時期的には、割と初期段階の頃のイメージ。