見られている。
それはもう、物凄く真剣に。
自分が動くたびに、じぃーっという視線も一緒についてくるのは
一体何故なのか。
ここ数日間、実に居心地の悪い気分をディクトールはずっと味わっていた。
これが例えば、あのやかましいエクレールや、そのほかの使用人などなら
嫌味の一つでも言って、こてんぱんにのしてやるのだが、いかんせん相手が悪い。
視線の主の名はフィーリア。
つい先日婚儀を迎えたばかりの愛しい妻だった。
初めて愛した少女にディクトールは弱く、通常よりも4割増で眉間に皺を寄せ
同じく4割増で他人に暴言を振りまきながらも、その視線に耐えていたのだが
限界という物はやはりある。
「フィーリア」
「なに?」
もはや耐え切れぬ、と視線の理由を問いただすために
名前を呼んで向き直れば、フィーリアは首をかしげた。
その様子がまた愛らしくて、ぐっと喉を詰まらせながらディクトールは口を開く。
「ここ数日間、じっと私を見ているのは何故なのだ。」
遠まわしに言っても仕方がない。
疑問を率直にぶつけると、フィーリアは不味いことを聞かれたと言わんに顔をしかめたが、
ディクトールがそれを見咎めて眉間に皺を寄せたことで
躊躇いがちにぽつりと呟く。
「タイミングを見計らっていたの。」
「何のタイミングだ?」
言おうかどうしようか迷っているように、フィーリアは視線を宙にさまよわせる。
暫くそうした後に、観念したのか、一つため息をついた。
「えぇとね、私、よく考えたらディクトールに何も言っていないと思って。」
「何を」
「だから、言わなきゃいけないと思っていたんだけど
うん、こういうものって結構難しいのね。
エヴァンジルや、グイードを少し見直したかもしれない。」
いい加減彼女が何を言いたいのかわからなくて、声を荒げかけたディクトールだが
フィーリアが先ににっこりと花のように顔を綻ばせて
「好きよ、ディクトール、愛しているわ。」
愛を告白したことで、完全に動きを停止した。





終わっとけ終わっとけ。