少しのネタバレを含みます。
その結婚が幸せなものだとは誰一人として思っていなかった。
政略結婚であったし、そもそも奪ったものと奪われたもの、憎んでいたものと憎まれていたもの
婚儀を迎える二人の関係は、そうとは思えないような名前のものしかなかったのだから。
だから、晴れて国王となったディクトールが、婚儀を挙げたばかりの妻、
元王女フィーリアを古城の塔に閉じ込めた時
王宮の者も、下々のものも、領主達も、「あぁやはり」と、
「権力の象徴、生きてさえいればよい飾り物扱いで、手に入れたのだ。」と思ったのだ。
それ故、彼女をうち捨てた古城の塔に、時折彼が足を運ぶのに意味はなく、
ただ手に入った飾りを慰み者にでもしているのだろうと、誰もそれ以外の意味など考えはしなかった。
ノックも何もなしに、古い錆付いた扉が開かれる。
「いらっしゃい。」
「ああ。」
にこやかに迎えるフィーリアとは対照的に、眉間に皺を寄せて一つ頷くだけのディクトール。
それを無言で一瞥して、顔をしかめながらもそれでも無言でエクレールが部屋から出てゆく。
ここに幽閉されるようになってから、幾度も繰り返されてきたやり取りだ。
うち捨てたはずの名ばかりの妻のところへ、名ばかりの夫がやってくるたびに繰り返されるルーチン作業。
彼は言う。
「意味?そんなものあるわけがなかろう。こんなもの…ただの気紛れだ。」
だけど同時に、壊れやすくもろい砂糖細工でも扱うようにフィーリアに触れる。
(大体、気紛れ程度でここまでふらふらこれるほど、王都と距離が近いわけでもないし
ディクトールの場合、自分より有能な人間がいないのと改革のせいで激務の筈なのに)
だけれどフィーリアはディクトールにそのことを指摘しない。
望む答えなど帰ってこないことはわかっているから。
それに正直に答えられるならば、拒否されるのを怖がって、幽閉などするはずが無い。
羽をもがれたカナリアは、耳もとられて目もとられ、重すぎる鎖をつけられて地面にぽつり。
…そんなことをしなくても、飛んでいったりはしないのに。
「本当に、馬鹿よねぇ。」
フィーリアは、愛の言葉も寂しいと言う勇気も忘れてしまった、
どうしようもない男に聞こえないように小さな声で呟いた。
ほ、ほの暗い…。
オーロフの反動でしょう、多分。