ひらひらと、空から白い雪が降ってくる。
最初に気がついたのはフィーリアだった。
「あら、雪が降ってる。」
窓に張り付いて、驚きの声を上げるフィーリアにつられて窓の外を見ると
ひらひらと空から白い雪が舞い降りてきていた。
既に王都にはうっすらと雪化粧が施されていて、人影も少ない。
元々美しい街ではあるが、静まり返っていると一枚の絵画のような光景になる。
普通の人間ならば見惚れる光景だが、王城という特等席でそれを見ている二人は
そろって顔をしかめた。
「…交通機関が麻痺するわね。」
「そうだな、何かしら手を打たねばならん。」
情緒台無し。
ここで思考がそこに直結するのは、あまりに感性や情緒を無視しすぎていて、どうなのかと思うが、
雪が積もってしまえば、流通が麻痺して商人達が慌てなくてはならないのは確かだ。
そしてそれによって物価が上がってしまうのを回避するために、
王として何かしら手を打たなくてはならないのも。
(さて、どうするか。)
長年の経験と知識から、考えを巡らせていたディクトールの耳に、
くちゅんっと可愛らしいくしゃみが聞こえた。
斜め下に顔を向けると、そこにはすんっと鼻を鳴らしているフィーリアがいる。
よくよくみれば、室内だというのに彼女の吐く息は白く、
耳たぶは寒さのためにか、真っ赤だった。
その上、背筋を冷気でも通り抜けたのか、ぶるりっと震えられてはどうしようもない。
ディクトールは己が羽織っているマントの止め具を外すと、
フィーリアの肩にかけた。
「ありがとう、ディクトール。」
「ふん、礼など要らん。」
どこまでも捻くれた返答に、くすくすと笑ってフィーリアはディクトールの手をとった。
「さ、ヴィンフリートも交えて、これからの対策を練りましょう。」
「…あぁ。」
前に立って夫を引っ張るフィーリアは、彼の顔を見ておらず
よって彼の顔が非常に珍しいことに、暖かに微笑んでいたのを見たのは
物言わず静かに降っている雪だけだった。
もうすぐ雪の季節ですね。
電車が止まる季節ですねー(え)