死にネタ警報。死んではいませんが、死ぬ前夜。
薄暗い湿った牢の中と外で、一組の男女が向かい合っていた。
牢の中には一人の男、名をディクトール。
そして牢の外には一人の少女、名をフィーリア。
王の試練の勝者と敗者である彼らは、どちらがこうなってもおかしくない身だった。
だが、負けたのはディクトールだった。
勝者である、フィーリアは王となり…そしてあまりに強大な権力を持つ敗者の彼は、
これ以上の争いを防ぐため明日処刑される。
「ディクトール。」
「何ですかな、陛下。」
そんな己のところに何をしに来たのか全く予想のつかぬ王を、胡乱気に見やってディクトールは
無愛想に返答した。
彼女はこんな所で、死ぬ自分を前に無為に時間を浪費すべきではないのに。
何故ここに来たのか。
その理由がわからなくて苛々する。
この一年の争いで、多少とはいえ他国に付け入る隙を与えているというのに。
王になったのならば、一刻も早くそれを解消すべきではないのか。
それに暴動もいくらか起こった。
多少はフォローを入れたとはいえ、自分達の争いごとに意識を割いていたせいで
見落としている部分もあるかも知れぬ。
それを見直し、暴動の再発を防ぐ事も急務だ。
それから…と、そこまで一気に考えたところでディクトールは固まった。
これから死ぬ身であるというのに、何を考えていたのだろうか。
仕事が身に染み付いている?
いや、違う。
己に幸せをよこさなかった王も、国も、憎んでいた筈だった。
だが本当にそうだったか?
本当に、そうなのか?
停滞していた思考は、頬に温もりが触れたことで霧散した。
「へい、か?」
「あのね、これだけは言っておこうと思って、だから来たの。」
ディクトールの頬に手を当てて、花のような笑みをフィーリアは浮かべる。
「好きよ、ディクトール。」
本当に綺麗な笑みだった。
そう思っていることを疑う余地の無い、綺麗な。
では何故自分を殺すのかとは、ディクトールは問わない。
「国が好きですか。」
「えぇ、好きよ。」
迷いの無い言葉に、ディクトールの顔にも微笑が浮かんだ。
この少女も愛よりも、国を選ぶのだ。
「ですがあまりやりすぎぬことです。バランスを失えば私のようになるかもしれません。」
「気をつけるわ。」
忠言にもう一度美しく微笑むと、フィーリアはディクトールの頭を乱暴に引き寄せて
額にキスをして立ち去った。
まるで暴風のようだった。
額に手を当ててそんな感想を抱いたディクトールは、壁にもたれかかる。
多分断頭台に立つ時には、心静かに逝けるだろう。
そんな確信を抱いて、彼は最後の夜をすごそうと目を閉じた。
ディクトールって甘・暗・甘・暗で来てますよね。
えぇと、すみません。