覇乱王の寝室が炎上し、彼が幽冥の底へと旅立ってから
早一週間。
そして、偉大なる覇乱王の跡継ぎに四天王が名乗りを上げてからも
同じだけの日数がたっていた。
ちゅんっと、雀の可愛い声も、集まれば騒音という名の凶器である。
「………」
差し込む朝日の眩しさと、雀の集団の囀りで叩き起こされた妖ノ宮は、
布団からむくりと起き上がり、目をごしごしとこすった。
「ねむい」
とろんとした声で呟くが、二度寝をするわけにはいかなかった。
なぜかといえば、今日より妖ノ宮は長く住み慣れたこの城を離れ
後見人となった、五光夢路の屋敷に移り住まねばならぬからである。
迎えのものが来るまでには、支度を済ませておかなければならない。
…覇乱王が倒れ、神流河を統べる者が不在となって、早一週間。
覇乱王に付き従っていた重臣「四天王」たちは、神流河を統べるべく
己が大義名分をより強くしようと、次々と覇乱王の遺児たちを
担ぎ上げ、勢力の旗頭としていた。
兄詮議は、神流河本紀に、弟極楽丸は加治鳩羽に
そして妹翠は森の妖の長伽藍に担ぎ上げられていく中、
一人取り残されていた妖ノ宮もとうとう、赤月の長である五光夢路に
担ぎ上げられることが決まったのだった。
しかしまぁ、なんとも物好きな。
衣擦れの音を立てて着替えながら、妖ノ宮はほんの少しだけため息を漏らした。
赤月、というのは、この神流河における対妖の組織である。
その構成員は皆、妖を憎み疎んでいるとの話であるのに
…どうして半妖など担ぎ上げようと思ったのか。
果たして、残ったのが妖ノ宮ただ一人であったからなのか
それとも、半妖というところに価値があるような何か、があるのか。
警戒するにこしたことは、無いわ。
きゅっと、頭の横でいつものように飾り紐を結んだ妖ノ宮は
一際眼光を鋭くする。
古くからついていた使用人達も、赤月側に連れて行くのを拒まれたため既に傍を離れ
兄弟妹達も、敵味方となってしまった今では、血の繋がりなど、切れた凧糸のようなもの。
誰一人として味方は無く、また、何一つとして信用できるものも無い。
なんと寂しいことか。
せめて長兄さえ生きていれば、このような騒ぎにはならなかったろうに。
支度の終わった妖ノ宮は、その場に座り込み、そっと目を閉じた。
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