「うぉおお〜!何故死んだぁー!!」
「何故って、それは父上のほうこそ聞きたいでしょうけど」
聞こえてくる泣き声混じりの叫びに、ぼそりと呟いて、妖ノ宮は天井へ視線を向けた。
赤月本部に連れて来られてから三日。
その間妖ノ宮がしたことといえば、寝る、食う、持ってきたものの整理の三つだけ。
後はぼーんやりと天井や床や壁を見ていることしか出来なかった。
なにせ、自由が無い。
夢路が来るまで部屋から出てはいけないと、
迎えに来た赤月の者達に、きつく言い渡され
当然のように、部屋の前には見張りをつけられ、
厠に行くにも断らないといけやしないありさまだ。
今後が不安になると、ため息をついた瞬間
「娘を置いたまま死んでっお前の代わりにしろって!?
邪魔なだけなんだよ!!まさよしぃいい!!」
一際大きいつんざく様な叫びが屋敷の中に響き渡った。
なんというかまぁ。
あれだけ慕われていれば、覇乱王正義も主冥利に尽きるというものだろう。
自身対してに言われていることには頓着せずに、
声の方向を一瞥して、妖ノ宮は崩れかけていた姿勢を正した。
叫び声が、途切れた。
昼夜問わず続いていたものが。
それが示すものは一つしかない。
妖ノ宮の考えを裏付けるように、どすどすという荒い足音が廊下から響いてくる。
そして、その足音は、妖ノ宮の部屋の前で止まると、
妖ノ宮に是非を問うこともせず、戸を開いた。
その無礼さに、妖ノ宮が目を丸くしているのにもかかわらず、
戸を開けた男は、ふんっと鼻を鳴らす。
「またせたな、妖ノ宮」
えぇ、全く。
三日間も暇で仕方がありませんでした。
心の中でだけ毒づいて、男を見上げる。
おそらく、これが五光夢路なのだろう。
長ったらしい黒の長髪に、良い布地を使った着物を着込んだ、
傲慢そうな美丈夫の姿を、それと気づかれないように観察していると
彼もまた、妖ノ宮をしげしげと覗き込んだ。
「なんだ、妖交じりというから、どれほどのものかと思っていたら。
ただの子供じゃないか、つまらない」
僕は子供が嫌いなのに、と付け加え、男は不遜な仕草で腕を組んだ。
「まぁいい。僕に、お前が必要なことには変わりない。
妖ノ宮、親父がくたばったお前に、僕が、飯を食わせてやる。
僕の言うとおりにしろ、逆らうな、口答えをするな。
妖交じりを担ぐのは楽しそうだが、僕はそういうことをされるのは好きじゃない。
…わかったな?」
分かったなと言いつつ、妖ノ宮の返答も聞かず、男はぴしゃんと戸を閉め
外に居る赤月達に集合を呼びかける。
再び独り部屋に取り残された妖ノ宮は、あまりの一方的さに
怒りとも呆れともなんともつかない気持ちで
彼が去っていったほうを見つめた。
「…なんて、変わり身の早い」
何か言おうかと、言葉を捜して出てきたのは、結局それだけだった。
あの男、先ほどまで泣いていなかったか。
なんだあのからっとした様子は。
疾風のようにやってきて、嵐のように去っていった男の様子に
妖ノ宮はただただ呆気にとられた。
…これが、妖ノ宮と、後ろ盾たる五光夢路。
その第一次接触であった。













次へ